「指が緩んだ場合については分かりません。僕と梅沢さんは指がわずかながら緩んでいますが、死ねば子供に経絡的進化は起こりません。」

「死なない場合とは不老不死と言うことですか」と町会長。

「単純に考えれば、1年に1歳以上確実に若返る方法があれば、死なないことになるのですが、そんな単純な問題ではないようです。腎臓の機能を上げ続ければ、経絡的には可能な感じがするのですが、DNAの問題が解決できないのです。」

「DNAの問題と言いますと?」と町会長は聞き返してきた。

「細胞を培養すると分裂の回数に限界があるので、人間は120歳を超えて生きるのは不可能だと昔から思っていたのですが、ウェブで調べてみると、120歳を超えた人がいるんですね。」

町会長も人間が120歳を超えて生きるのは不可能と思っていたらしく、「本当ですか」と聞き返して来た。

「フランス人の女性でギネスに載っている人がいます。それで、細胞分裂の回数に限界があるのは培養の仕方に問題があるのではないかと思って調べてみたら、がん遺伝子の活性化や酸化ストレス、DNA損傷などが原因で複製老化が起こるんですね。」

「複製老化と言いますと?」と町会長は聞き返してきた。

「細胞を培養すると分裂回数が30回を超えるあたりで、ガン細胞になったり、分裂しなくなったりして、細胞が寿命を迎えてしまうのです。この現象が複製老化と呼ばれています。」

「複製老化が起きなければ、人間は基本的に不老不死と考えられるということですか」と町会長。

「単純に考えればそういうことになりますが、細胞分裂の際にDNA鎖の末端が完全には複製されないという問題があり、これが複製老化の根本的な原因だとされています。」

「やっぱり、細胞分裂の回数には限界があるんですね。」

「これは楽観的仮説なんですが、生体内において細胞やDNAが経絡により機能低下をしていなければ、複製されたDNAが修復され、限界なく細胞分裂を繰り返すと考えています。」

「経絡はDNAにも及ぶのですか」と町会長。

2019/10/8